【Q&A】12.26感染症対策研修会での質問へのご回答 

 R05.12.26に行いました、感染症対策研修会~コロナ・インフル・冬季感染症~の受講後アンケートに寄せられたご質問に関して、講師の山藤先生より回答いただきましたので、掲載いたします。

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Q1:今後の新たな感染症の可能性はどうでしょうか?
A1: COVID-19のように、現在の世界規模での人々の移動や交流を鑑みれば、今後新たな感染症が起きることは、十分あり得るという前提を持つ必要があると思います。

Q2:記憶が合ってるかどうか不安ですが、条件が揃えばウイルスがヒトから離れて数分で感染力を失う?と伺った気がしますが、手指消毒はどのような場面で必要なのでしょうか?
A2: SARS-CoV-2は、環境によって異なりますが、概ね5分で80%近く、20分ほどで90%感染力の低下を示唆する報告があります(J. R. Soc.Interface20: 20230062)。基本的には、呼吸器系を介して感染すると考えて良いと思います。
一般論として、WHOは手指消毒について、患者ケアにおける「5つのタイミング」として、①患者に触れる前、②清潔/無菌操作の前、③体液に曝露された可能性のある場合、④患者に触れた後、⑤患者周辺の物品に触れた後に行うことを推奨しています。(https://www.who.int/publications/m/item/five-moments-for-hand-hygiene)

Q3:ゾコーバなどの抗ウイルス薬を服用するとプラークなどに存在するコロナウイルスの数も減るのでしょうか?
A3:プラーク内のウイルスに対する具体的効果につきましては、現時点で私は把握していません。

Q4:医療機関、介護施設、家庭、いろんな場所(状況)によって感染対策が変わってくると思います。基本はマスクと喚起かと思われますが、現状における山藤先生のお考えをお伺いしたいです。
A4:ご指摘の通り、基本的には換気とマスク着用となりますが、流行状況や感染リスク、重症化リスク等に応じて適宜対応するのが良いと私は考えております。

Q5:①勉強不足ですみません。COVID-19ウイルスは、血管のプラークに感染し増殖するとお聞きしたように思いますが、その理解でよかったですか?(本当に、全身の炎症であるとぞっとしました。)
A5:ご紹介した論文(Nature Cardiovascular Research 2023;2:899–916)では冠動脈での話題ですので、不明です。しかし、この論文の主張に基づけば、全身の血管にも影響しうるのではないかと推測されます。

Q6:②このように血管内プラークに感染していく感染症は他にもあるのでしょうか?
A6: 例えばヘリコバクター・ピロリ菌は頚動脈内のプラークから検出の報告があり(Stroke. 2001;32(2):385-91.)、プラーク形成のリスク因子であると報告されています(Ann Med 2021;53(1):1448-1454.)。他にもサイトメガロウイルス(J Am Heart Assoc. 2016;5(8):e003759)をはじめ、プラークへの感染を関連を示唆する病原体は、他にもヘルペスウイルスや歯周病菌などいくつか報告があるようです(Circulation. 1997;96(7):2144-8.,Am Heart J. 1999;138:S534-6. )

Q7:③プラーク内での増殖は、抗ウィルス薬を使用しない場合は、期間はどの程度続くのでしょうか?発熱等の症状のうち、受診すべきサインはありますか? (今後感染が多くなった場合、自己負担金発生や慣れ?、医療機関の混雑等のため、受診控えの市民が今後増加する可能性があると思います)
A7: ご紹介した論文(Nature Cardiovascular Research 2023;2:899–916)では、死亡した8人のデータとin vitroデータですので、人体におけるプラーク内での増殖を直接確認したものではありませんので詳しくは不明です。とはいえ、心筋梗塞や肺塞栓、深部静脈血栓症、脳梗塞などの血管イベントが増えることが他の研究でも示されているため、これらの症状が疑われるときは、新型コロナ自体が軽症でもすぐに受診をするように推奨することが必要と考えられます。

Q8:訪問の現場です。5類になって数ヶ月経った今現在、陽性陰性に関わらず全てのお宅でN95を装着しています。耳や鼻がただれたり締め付けによって頭痛や首、肩こりがあります。身体介助だけでなく買い物や掃除などの1対1でない患者さんとほとんど接さないサービスでも装着しなければならない事業所のルールがあります。陽性ならN95やガウンテクニックはわかりますが何も症状のないお宅でも、もしものことを考えればN95は必要なのでしょうか…
A8: 流行状況をはじめ、各場面ごとに感染リスクとのバランスを鑑みて、適宜マスクの種類を選択するのも一つの方法かもしれません。なお、講演でご紹介しましたように、いわゆる「不織布マスク」であっても、自分の顔にフィットしたものであれば、N95マスクに近い性能が期待できます。

Q9:小児でコロナ感染した場合の副作用やその後の病気に対するリスクは大人の場合と違うのか。何かデータがあれば教えていただきたいです。
A9: 致命率という点では、高齢者に比べて明らかに低いといえます。しかし、米国のデータでは、COVID-19は子供における重要な死因であると報告されています。例えば、2021/8~2022/7の1年間で821人の子供がCOVID-19により死亡しており、間接的な影響も含めればもっと多いと推測されています(JAMA Netw Open. 2023;6(1):e2253590)。
一方で、長期的な影響については、例えばLong COVIDでは、特に小さい子供は症状を正確に述べることは難しいためよくわかっていません。さらに、長期的な免疫学的な影響についてもわかっておりません。

Q10:パキロビッドは重症化予防に有効だが、特にパキロビッド600を服用された患者さんの中で吐き気などの副作用が他の抗ウイルス薬より1割程度多い印象があります。有効性と副作用の総合評価として他の抗ウイルス薬より果たしてあきらかに有効と言えるのでしょうか?
A10:経口薬につきましては、ラゲブリオ®はプラセボ(偽薬)と比較して統計学的有意差はありませんでした(BMJ 2022 ; 379 )。また、ゾコーバ®は重症化リスクのある症例に対してプラセボより有効であったという報告はありません(2024/1/9時点)。従って、経口薬はパキロビッド®のほうが、 他の抗ウイルス薬よりも優先すべきと言えます。なお、日本人高齢者の場合、標準化eGFRより個別化eGFRの方が良いかも、という話題を以前させていただきましたので、ご参考に頂けたら幸いです。