7.23感染症対策多職種連携研修会~新型コロナのアップデートと溶連菌感染症~では、沢山の専門職の方々にご参加いただきました。当日の参加は、ZOOMアクセス数85件、YouTube視聴回数151件 合計236件の参加となっています。また、受講後アンケートにも、50件の回答が寄せられました。
受講後アンケートで、講師先生の質問が寄せられておりました。山藤先生より回答をお預かりしていますので、この場で返答させていただきます。
Q補足:(研修会での質問)新型コロナによる認知機能低下はどのようなメカニズムで起きるのか?
A補足:新型コロナによるIQ低下について、メカニズムはよく分かっていないと申しあげてしまいましたが、Long COVIDに関連する認知機能低下(海馬反応や記憶の低下)につきましては、持続感染に伴う末梢のセロトニン欠乏と関連するという報告があることを前回の研修会で申しあげました。(Cell2023;186(22):4851-4867)
また、血液脳関門が破壊されるという報告(Nat Neurosci 2024;27:421–432)や、間接的にサイトカインが脳に影響を与える可能性(Cell.2022;185(14):2452-2468)も報告されております。また、ウイルス持続感染に伴う、スパイクタンパクによる神経への影響やアルツハイマーの増悪なども報告されております。そのため、主にウイルス持続感染に伴う様々な影響によって認知機能低下が起きると考えられる、と回答すべきでありましたが、回復した軽症例や再感染例でのIQ低下がウイルス持続感染と関連するのか自信がなく、よくわからないとお答えしてしまったのですが、回答として不適切であったため上記を補足させていただきます。
Q1:コロナワクチン接種の年代別の効果な接種期間(間隔)
A1:どれくらいの間隔で接種するのが適切なのかは、よくわかっていません。接種者の年齢や重症化リスク、コロナへの感染、変異株の特徴などによっても変わってくると思います。
重症化を予防する、という点では、高齢者は最終接種から半年以上すると重症化予防効果が落ちてきます(BMJ 2022 ; 379)ので、これまで半年以降に1回接種してきました。現在、新型コロナは夏と冬に2回大きな流行があるため、高齢者への接種回数を1年に1回としたときに、(1回で十分なのかどうかに加え)どの時期に接種するのが最適なのかなどは今後検討すべき課題であると思います。非高齢者かつ重症化リスクの低い人にとっては、重症化予防効果、感染予防効果について、免疫や変異株の状況などを鑑みて接種を検討することになるため、現時点で間隔については(最低3回接種していれば)個別性が高いと考えております。
Q2:屋外でマスクして、暑くて息苦しいときは、両手間隔の距離=ソーシャルディスタンスを確保できるならば、マスクを外しても大丈夫ですか?
A2: 空気が流れている屋外であれば、至近距離での会話でない限り、マスクを着用せずとも感染リスクは低いと考えられます。
ただし例外的に、屋外夜市のような、湿度が非常に高く人々が密集していて、さらに空気の流れが停滞している場所では、屋外であっても大規模クラスターの発生が報告されています(Front Public Health. 2023; 11: 1153303.)。
Q3: 今後予想されるコロナ感染症の経過(3年後、10年後)
A3:わかりかねます。ウイルス自体がなくなることはないと思いますが、英国や米国で報告されているような、長期病欠者の増加などの社会的影響が日本で大きくならないことを願っております。
Q4:ペニシリン系の抗菌剤が手に入らない、セフェム系抗生物質が手に入らいない状況で、溶連菌感染症に感染してしまったらどうすればよいのでしょうか?
A4:溶連菌に対して、第一選択となるペニシリン系やセフェム系が使用できない場合、日本のA群溶連菌はマクロライド耐性が多いため(4割以上が耐性, J Infect Chemother. 2016;22(11):727-732.)、代替薬はクリンダマイシンをおすすめします。
Q5:介護施設で働いているものです。
①出席、出勤停止の基準がない感染症(特に溶連菌)に職員が罹患した際、抗生剤投与後24時間経過後の出勤で構わないでしょうか?介護施設では高齢者への感染を考慮して少し延ばした方がよろしいですか?
②介護施設(デイサービス)での入浴介助時のマスク着用について。現在不織布マスクを着用し介助していますが、夏場はかなり過酷で外して介助する事を検討しています。どのような点に注意すればよいか教えて頂ければと思います。よろしくお願いいたします。
A5:お答えいたします。
①大多数の感染者で、「適切な抗菌薬」の治療を開始後24時間経過すると、感染性は失われます(Pediatrics. 1993;91(6):1166-70.)。ただし、マクロライド系は日本では耐性が多く、適切ではない可能性があります(J Infect Chemother. 2016;22(11):727-732)のでご注意ください。
②お互いマスクなしの状況での会話は、流行時の感染リスクは相対的に高いと考えられます。なお、医療従事者が利用者に感染させない、という点では布マスクでも効果が期待できます(eBioMedicine 2024;▪: 105157.)。 ただし、医療従事者が感染しないようにする、という点では布マスクでは不十分です。